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コラム column

トムソンといっしょー23

Tale of Tomson-23
トムソンといっしょ-23
僕はもう持ちそうにない。眼が見えなくなって、声も聞こえなくなった。 「トムソン、トムソン!!」って大きな声で呼ばれると呼ばれたのは分かるけれど、どの方向で呼ばれたのか分からなくて、首をあちこちに回してしまう。歩き回るのもようように出来ていたけれど、数日前から、階段を登れなくなった。トイレのときは、階段の前で立ち止まると、お母さんが抱っこして連れて行ってくれた。もう、みんなと走ったり跳んだり出来なくなる。みんなの部屋、今の景色もきっと見られなくなるんだ。みんなの部屋を見ておこう、もう一度見て記憶をしっかりとさせておこう、と思った。 お父さんの部屋に入って行った。ゆっくり歩いて足音もしなかったのか、すぐそばに行って、漸く気がついてくれた。「おや、トムソン、どうしたの?」僕は、いや、特別の用はないんだけど・・・といった顔で、ぐるっと眺めまわして、綺麗に片づいているお姉ちゃんの部屋に行った。お兄ちゃんがいた部屋にもいった。今はベッドだけしかない殺風景な部屋になっているけれど、夕方の西日が柔らかく昔の思い出を包んでいた。3階にも行ってみようと思った!2,3段上ったけどそれ以上降りることも上ることも出来なくなった。お母さん助けて!って、ワンワンワンワンと吠えてお母さんを呼んだ。「トムソン、そんなところでどうしたの?」って、いって、すぐに来てくれた!よかった!
5月5日は子どもの日だ。いつもの年にはみんなが集まって、公園や動物園に行っていた。昨日までは、みんなの側に行って、カステラをねだったり出来た。お父さんが、「明日また、カステラを買ってきてやるからな」、といって、撫でてくれた。だけど僕は夜になって、急に腰が砕けて立てなくなってしまった。トイレに行く合図もできない。紙おむつをつけてもらった。横たわって、首をあげて水を飲むことはできるけれど、食べる気力もなくなってしまった。お兄ちゃんたちは出かけて行ったので、お父さんとお母さんと僕だけになった。今、夜中の1時20分。寝たままでかすれた吠え声をあげてしまった。恐い夢だった。周りには誰もいない。喉が渇いてたまらなくって、水を飲もうと思ったのに茶碗には何も入っていない。別の茶碗、もう一つの、あっちの、あちこちに僕の水の茶碗があるのに、どの一つにも水が入っていない! どうして! どうして! 僕に水ちょうだい!って、悲しくて苦しくてかすれた声でワオーンンって声が出てしまった。お父さんとお母さんが口元に水を持ってきてくれた!良かった!! ぴちゃぴちゃさせていっぱい飲んだ。水がおいしい。もう食べることなんか出来ない。体力がどんどん急激に衰えて行くのが自分でわかる。お父さんが「大丈夫、トムソンは天国にいける、怖くないよ、明日また、カステラを食べようね 」と撫でてくれている。14年と8か月いっしょに生きてきた。家族みんなで生きてきた。先に逝ってしまうのは寂しいけれど仕方がない。ただ、生みの親の顔を覚えてはいないから、あっちの世界に行っても誰かが待っていてくれるのだろうか?しばらくあっちの世界で待っていなければならないのだろうか。大丈夫、一人でだって何とか出来るさ。時々眼をあげてお母さんの気配のする方をみるけれど、何も映って来ない。だけど頭や首やお腹が優しく撫でられて、すぐそばにいてくれるのが分かる。ありがとうお母さん、ありがとうお父さん、僕はずっと幸せだったよ、沢山の楽しかった記憶をもらって、あっちの世界でずーっといつまでも待っている。またもう一度一緒に散歩したり、冬の山に登ったり、海に行ったり、しよう。もうすぐ僕は死ぬ。死んで今の世界のみんなと会うことが出来なくなる。抱っこしてもらってほんわかと気持ちよく寝てしまうこともなくなるけど記憶は残っているよ。みんなと過ごした時間の記憶の宝物、僕は絶対に忘れない。いつまでも、これからもいっしょだよ。

トムソンが死んだ。夜中に悲鳴のような吠え声をあげていた。5日 2:00すぎに、水を美味しそうにごくごくと飲んで、頭を落とした。朝6:30 の悲鳴にお母さんが行って、水を飲ませた。しっかり飲んで、頭を支えられず、直後に大量に排尿、そのまま息を止めて、心臓も止まって、それが最期だった。6:45分、絶命。脈が触れない。身体を拭いてやって、眼を閉じようとするが、閉じず。まだ、息を吹き返しそうないい顔だ。 裏庭に墓を掘ってやろうとするも、深く掘るのは困難であるとして、駒丘の動物霊園で火葬、お骨にしてもらった。小さな綺麗な骨壷に白っぽい骨だけのトムソンがいた。合掌。 落涙止まらず。家族のみんなに連絡が取れて、東京の息子家族以外は集まることができた。皆でお骨を拾ってやることができた。同じ日蓮宗での葬儀であった。お骨は、家の仏壇に置いた。質素で家族だけの葬儀ではあるけれど、皆んなが集まって葬送してやることが出来た。家族の記憶の中で躍動するトムソンが生き続けているだろう。トムソンもあの世から、見ているだろう。天国で楽しく暮らして欲しい。利口な犬なのだから、きっとまた蘇って来ると信じたい。

明日からは、何処にもトムソンは居ない。声も足音も聞くことが出来ない。随分と寂しいだろう。

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